タグ「亜種」のついた投稿作品一覧(56)
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「女王陛下からの招待状っス。確かに渡したっスよ。」
ひらひら、と『庭師』はパールに向かって何も持っていない手を振ってみせる。
「そろそろ仕事に戻らにゃならんっス・・・鋏を取ってもいいっスか?」
言いながら、答えを聞く前に『庭師』は鋏を手にしている。
このマイペースぶりがパールの気に触るのだろうか?青...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 25 『Dolore』
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悲鳴のように飛び交う剣戟。
打ち鳴らされる、剣と戦斧と仕込み杖。
決して崩れぬ世界の一部となったかに見えたそれは、徐々に乱れを見せ始めていた。
マーチが、押され始めたのだ。
ダイナの的確な援護にも拘らず、その身には無数の傷が刻み込まれ、インディオ風の衣装のあちらこちらに緋色を滲ませていた。
ダイナ、...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 24 『Cavaliere&Giardiniere』
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ノエルは、一度森の向こうで待機している面子を迎えに木々の間に消えていった。
なんでも、ノエルはこの『物忘れの森』の領主であるそうで、森の入り口から出口まで彼女と同行すれば記憶を失うことはないのだという。
この森の厄介なところは、一度入り口を潜ってしまうとランダムにかなり深いところまで転送されてしまう...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 23 『Paura』
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「んー・・・・・・。」
「どうした?」
頭の上の帽子に、指先で触れる。
『帽子屋』の『欠片』を収納した、『虚帽子』に。
「いや、僕も帽子の中に取り込まれるかと思ったけど、そんなことはなかったからさ。」
ふぅ、とパールの隣を歩いていたメアリ・アンがため息をついた。
なにやら、こちらを月曜の次の曜日が判...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 22 『Cerbiatto』
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あの後、バンダースナッチが僕の尻尾にまとわりついて離れないわ、メアリ・アンがバンダースナッチに銃を向けようとするわ、それに怯えたバンダースナッチが尻尾を思いっきり握りしめるわ、ようやっと追いついたパールがそれを見て思いっきりバンダースナッチを睨みつけるわ、アマルがそれを見てくすくす笑っているわで、結...
欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 21 『Teaparty arrabbiato』
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ちりん
外で、鈴を鳴らすような音がした。
「どうやら、客人のようだな少年。『欠片』ならば重畳。敵ならばこちらから撃って出る、またとないチャンス。」
にやり、と笑うダイナ。
その極悪人の笑みが凛歌の面影を多分に残していてひどく懐かしかった。
「帯人、預ける。」
ぽん、とダイナが僕に向かって、何かを放り...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 20 『Bandersnatch』
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「見えたか?少年。」
気がつくとダイナが、真正面から僕の顔を覗き込んでいた。
僕の掌の中には、変わらず黒緑色の卵がある。
しかし、その卵は僅かの間に存在感を増したような気がしていた。
「アレが、当面の敵だ。月隠 凛歌にとっては、非常に分の悪い相手となる。・・・・・・少年よ、アマルはどうやって、お前の...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 19 『Base』
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「人間が、嫌いかい?」
やけに色の濃い桜の中から現れたそいつは、そう、言った。
「誰だ、お前。」
「ふむ、自分より遥かに大きな大人に対しても物怖じしないその態度・・・まずは、合格だ。」
「誰だ、と聞いている。」
苛立ちを抑えて、もう一度問う。
新入中学生だからって、舐めるな。
「これはすまなかっ...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章・間章 『Maestro』
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あの後、その場で『人柱アリス』についての予測が始まりそうになったが、結局のところ、起こるまで分からないし、それよりは凛歌の欠片を探していった方が建設的だという結論に落ち着いた。
さくさくと、砂を踏みしめる。
青い海、白い砂浜と言えば夏の定番だが、海は暗々しく蒼く、白い砂浜は妙に硝子質で無機質。
おま...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 18 『Uovo』
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「・・・・・・しかし、来てしまったものは仕方ない。頼んだぞ帯人。『チェシャー・キャット』。」
ほふ、とため息をつくパール。
もしかしたら、苦労人なのかもしれない。
しかし、今、妙なことを言わなかったか?
「チェシャ猫・・・・・・って、誰のこと?」
まさかアマルが・・・いや、しかし、パールに耳がある以...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 17 『Gatto Cheshire』
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ひとしきり叫んだ誰かは、ほふっ、とため息をつく。
仰々しい演出が、自分で馬鹿らしくなったのかもしれない。
「本当につれてきたのか、アマル。」
こつん、と白いブーツが一歩、近づく。
首を捻って見上げると、白いワンピースの裾と、腰部にベルトで吊り下げられた玩具のように小さな二丁拳銃、淡いピンクのカーディ...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 16 『Conigilio bianco』
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冷たい。
無限にある極小の針が、全身に突き刺さり、侵入してくるような冷たさ。
そして、耳の痛くなるような、静寂。
こぽこぽと口元から気泡が漏れる音以外、なんの音も無い。
あの後、部屋を出るとすぐ前に降りの螺旋階段があった。
アマルが言うには、『初歩的な魔術の行使法を覚えた結果、無意識に意識の最下層へ...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 15 『Paese delle meraviglie』
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今回の話は残酷表現を含むので、ワンクッション置きます。
OKだよ!
大丈夫だよ!
違反通報しないよ!
・・・・・・な方のみ、先にお進みくださいませ。
欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 14 『Successione』
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「勿論、そこにいる『凛歌』は実体じゃない。そこにいる『凛歌』も、この部屋も、全て僕の記憶を『夢』という形で再現しているにすぎない。」
ひどく冷静な声が背後から聞こえる。
『僕』だ。
僕の隣に並び立ち、愛おしげに『凛歌』の髪を撫でる。
「僕が愛した『凛歌』は故郷の土に還った。今の三重県だね。彼女の一族...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 13 『Augurio』
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『チェシャ猫、チェシャ猫、アリスを探せ
国境(くにざかい)の門が開いた
ここはお前のための国
読者がお前に付き添いゆこう
白兎をに導かれ
記憶の卵を割り砕け
怯えるバンダースナッチを捕まえろ
諦念の帽子屋が茶会を開く
誇り高き三月兎を懐柔せよ
現実無くした眠りネズミを揺り起こせ...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 12 『Se stesso』
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クロックと打ち合わせののち、『工房』でスタンバイしていると、壊しそうな勢いでドアが開く。
青ざめた顔の、帯人だ。
酷い格好だった。
何があったのか眼帯は外れ、カッターシャツの背中は無数に引き裂けて血が滲んでいる。
「おじ、さん・・・。」
ふらふらと覚束ない足取りの帯人の肩を、クロックが支えてソファー...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 11 『Porta』
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「うんうん、いい具合に動揺してくれるね。では、もうひとつ基盤を外してあげよう。君は『東の黒き魔女』・・・わたしの愛娘の、『使い魔』だったわけだが・・・・・・。」
黒緑の深淵が一瞬そらされ、アカイトを見た。
「『アカイト』、『ここに来て』、『跪きなさい』。」
不思議な響きの声音で、命じる。
踏みつけら...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 10 『Zoologia』
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それは、僕が人気のない夜の中を彷徨い歩いていたときに現れた。
「いよぅ、兄弟。」
唐突に、目の前に現れた赤色。
赤色のあいつ、黒色の僕。
背の高いあいつ、あまり高い方ではない僕。
にやにや笑うあいつ、驚愕を貼り付けた僕。
奇妙な鏡を間に挟んだように、対峙する。
あるいは、言われたとおりの『兄弟』、か...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 9 『Oliva』
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一度部屋を出たアカイトが手に持っているものを見て、声を失った。
思わず『どこの皮膚科から盗ってきた?』と言いたくなるくらいの、ゴツくて重そうな・・・。
「それは・・・なんだ?」
勿論、私はそれが何かは知っているし、用途も知っている。
ただ、認めたくない一心で喉から引きつった声を絞り出した。
「んー・...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 8 『Orecchino』
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憔悴しきった帯人の顔を見て思った。
凛歌お前、こうなるのをわかってなかったのか?
警察からの連絡で、職場近くで凛歌の通勤用のリュックが発見された。
中身が散乱し、財布やパスケースもそのままであったことから、警察では事件性ありと見て捜索を開始したそうだ。
これは、朗報だった。
成人の失踪者はまず、自分...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 7 『Homunculus』
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凛歌の、帰りが遅い。
胸の奥がざわざわした。
正確には、胸の奥の『ナニカ』がまた騒ぎ、叫び始めたのだ。
凛歌のところに急げ、と。
オーブンの中のタルトを放り出して家を出る。
凛歌の職場の近くに来たときだった、急に周囲が暗くなったのは。
無明の闇というものに限りなく近いくせに、近くにある看板の文字の色...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 6 『Fratello』
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息苦しさで目を覚ますと、石造りであるらしき、小さな薄暗い部屋だった。
息苦しいのは、猿轡を噛まされているせいだ。
口の中に、猿轡とは別に、細い金属の鎖のような感触がする。
体の動きを抑制されていることに気付き、見下ろすと、野暮ったいワンピースに似た拘束服を着せられているらしかった。
胸の上下を走るベ...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 5 『Gabbia uccello』
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「・・・・・・なんてね。」
ひょい、とデリンジャーを持ったまま、両手を軽く挙げ、肩をすくめて見せる。
「あんたがこんなオモチャで傷ひとつ負わないのは百も承知。今のは弟子から師匠へ、もしくは娘から父親への少々過激な再会の挨拶とでも思って。」
「どうだろうね。お前は、油断がならない。」
無傷でその場に立...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 4 『Rosso』
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「凛歌?」
「んー・・・?」
こてん、と頭を胸に預けた状態で、凛歌が応える。
胸に頬を寄せて、うつらうつらとしていた。
「今日は、甘えただね?嬉しいけど。」
「んー・・・。」
小さな手が、彼女自身が作ってくれた黒いカッターシャツを握った。
頭を撫でると、喉を鳴らす猫のような仕草をする。
凛歌の両手が...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 3 『Derringer』
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凛歌は、朝から顔色が悪かった。
まるで、超長距離寒中水泳でもしたかのように頬が青ざめ、時折何かを警戒するように周囲に気を配る。
こんな険しい表情は、出逢った頃に黒服から逃げ回ったあの時以来だった。
「じゃ、帯人、仕事行ってくる。帰り、ちょっと買い物してくるから。留守番、頼むな。」
「まだちょっと早く...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 2 『Ombrello』
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「ぐぅ・・・ぅ、ぅぁ・・・。」
「ぃつ・・・・・・っ。」
外からはざらざらと土砂降りであろうことが予想できる音が響いてくる。
そのせいなのか、今夜の帯人の狂乱ぶりは、一段と激しかった。
先程から20分近く首筋にぎりぎりと歯が突き立っているが、それでも収まっていない。
「流石に、問題か・・・。」
そろ...欠陥品の手で触れ合って・第二楽章 1 『Incubo』
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凛歌は、可愛いのに可愛い格好をしてくれない。
可愛い服を選んで買ってきても、ワードローブの肥やしになっている。
仕事柄、仕方ないとは思う。
凛歌がやっているのは、介護だ。
時には老人を抱え上げて肩が唾液で汚れたり、排泄物を処理して服が汚れたり、漂白剤が飛んで色が抜けたりするのだというし。
だから、綺...欠陥品の手で触れ合って 日常編 『Data』
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僕のメンテナンスについてきた凛歌が、ある一点をじーっと、きらきらした視線をただ一点に送っている。
白髪赤目のボーカロイド、その頭の上。
ふわふわした、兎の耳に。
視線に気づいたのか、クロックがひょいと身を屈める。
凛歌が、ふらふらとクロックに・・・正確には、その兎耳に吸い寄せられていく。
「・・・・...欠陥品の手で触れ合って 日常編 『Orecchio Gatto』
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「ゴメン叔父さん、ちょっと匿って!!」
工房に駆け込み、適当な機材の陰に身を隠す。
とりあえず、今は冷却期間が必要な気がひしひしとしていた。
むしろ、冷却期間を置かないで顔を合わせたときが恐ろしい。
「・・・凛歌、そんなに慌ててどうした?」
叔父さんの言葉に、深い沈黙。
ゆっくりと、重い唇を開く。
...欠陥品の手で触れ合って 日常編 『Gioco』
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膝の上で本を読む凛歌の髪を梳く。
さらさらとした手触りは、いくら触っても飽きなかった。
「ねぇ、凛歌。」
「・・・なぁに?」
本を閉じ、僕を仰ぎ見る。
その夜色の眼に、ずっと聞きたかった質問をぶつけてみる事にした。
「どうして、僕を拾ったの?」
凛歌は、人間嫌いだと聞いた。
そして、出逢ったあの日、...欠陥品の手で触れ合って 日常編 『Gatto Nero』
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