タグ「鏡音リン」のついた投稿作品一覧(84)
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変わるもの、変わらないもの
リンがリンベルとして王宮に仕えるようになり三ヶ月。
先輩のリリィから指導を受けつつ、リンは王子直属のメイドとして働いていた。最初の頃は激変した王宮に戸惑ったものの、玉座の間や王子の私室までは派手になってはおらず、おそらく上層部の貴族がやったのだろうと判断が出来、レン...蒲公英が紡ぐ物語 第20話
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もう一人の召使
黄の国王宮の一室。体格に対してやや大きめの執務机で書類作業に追われていた少年に、長い金髪のメイドは一つの連絡を届けた。
「……ああ、そっか。今日だったっけ」
金髪の少年は仕事の手を止め、今思い出したかのように言う。王宮に新しいメイドが入るのは以前から聞いていたのに、いざ当日にな...蒲公英が紡ぐ物語 第19話
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久方振りの故郷
三年ぶり……。いや、正確には六年ぶりになるのかな。
降りる人達の邪魔にならない位置に佇み、リンは久しぶりの故郷を眺める。王宮を追放されてからの三年間は王都の外れにある貧民街で過ごしていたし、キヨテルに拾われてからの三年間は港町近辺から出る事は無かった。
王都の大通りに馬車が到...蒲公英が紡ぐ物語 第18話
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人の縁
青の国最南端の港町にて。
屋敷で執務を行っていたカイトは、最後の書類を読み終えて判を押す。案内人業が中心とはいえ、王子として報告書に目を通すのも仕事の内だった。
「ふう……」
肩のこる事務作業から解放されて伸びをする。王子として政治に関わるより、案内人として観光客を相手にする方が性に...蒲公英が紡ぐ物語 第17話
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新しい思い出
「王子とは言っても、俺はそこまで高い地位にいる訳じゃないんだ」
梯子を脇に抱えたまま、カイトは隣を歩くリンに自分の立場を話す。
上の兄達とはかなり歳が離れ王位継承権も低い。王宮に顔を出す事はあるが、それも年に片手で数えられる程度。何かと面倒な事の方が多い為、適当な理由をつけては王...蒲公英が紡ぐ物語 第16話
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青の島
下船の際に銀髪の二人と別れ、リンは初めて異国に足を踏み入れた。港町の通りを歩く人は多く、土産屋や露店からは活気が感じられる。地元の住人と国外からの旅行者が入り混じり、その光景が当たり前のような雰囲気だった。大勢の観光客が訪れる為か、道沿いには宿が並び立つ。
青の国の滞在は五日間。最初の...蒲公英が紡ぐ物語 第15話
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船旅の出会い
黄の国と緑の国は陸路で行き来が出来るけれど、青の国へは海路しか存在しない。大陸と島は海で分けられている為、移動には絶対に船が必要になる。
黄からでも緑からでも、船に乗らなくちゃいけないのは分かっている。移動も旅行の楽しみの一つではある。いつもは見ているだけの旅客船に乗り込んだ時の...蒲公英が紡ぐ物語 第14話
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よそ者の家族
広くも狭くもない部屋で、リンはユキを抱えるようにしてソファに座っていた。腕を軽く伸ばして本を開いていて、ユキの目の前で本をめくる。
「……二人は鉄屑の山から抜け出して、外の世界へと飛び出しました。二人の出会いは一つの冒険の始まりであり、一つの奇跡の始まりでもありました。おしまい」
...蒲公英が紡ぐ物語 第13話
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救済の手
馬車って、こんなに揺れる物だったんだ。
揺れが少ない箱馬車しか乗った事が無いリンは、一般に使われている馬車便に驚きと新鮮さを感じずにはいられなかった。右隣にはキヨテルが、左隣には名前も知らない人が当然のように座っていて、向かいの席にも目的地が同じ人達が並んで座っていた。
薄汚れた服...蒲公英が紡ぐ物語 第8話
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拾った命
路地裏で倒れているリンを見つけて、眼鏡の男性は即座に路地へ駆け込む。
「いた! 君、しっかりするんだ」
屈みこんでリンの体を仰向けにし、体に負担をかけないように注意して上体を起こす。肩を軽く触るように叩いて呼びかけても応答は無い。
念の為に脈と呼吸を確認する。幸いどちらも問題は無か...蒲公英が紡ぐ物語 第7話
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生き延びる意志
「待てぇ! この盗人!」
背中に怒声を浴びせられ、しくじった、とリンは内心で悪態を吐く。走りながら振り返ると、商品を盗られて立腹した店の主人がこちらに向かって来るのが見えた。後ろの確認は最小限にして、前を向いて全速力で王都の通りを駆ける。
捕まってたまるか。
継ぎ接ぎだらけの...蒲公英が紡ぐ物語 第6話
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狂い出す歯車
リンが王宮から連れ去られ、レンが声を嗄らして自室に戻った直後。
中庭で何が起こったのかを知らないメイコは、王宮に戻った直後に上層部から呼び出しを受け、部屋で告げられた言葉に愕然としていた。
「突然だが、会議でメイコ殿の罷免が決まった」
何を言われたのか理解出来ない。思考が止まり...蒲公英が紡ぐ物語 第5話
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裂かれる双子
行きたくない気持ちはあるものの、中庭から王宮に入るにはあそこを通るしかない。レンは内心の不安を誤魔化しながら、リンと一緒に大人達の方へと進んで行く。
出入りが偶然重なっただけだ。通して欲しいと言って王宮に入れば良い。レンは自分にそう言い聞かせていたが、違和感は強まるばかりで治まる...蒲公英が紡ぐ物語 第4話
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置いていかれた者
黄の国王都の共同墓地。王族が眠る一画で、メイコは一人佇んでいた。手にした花束を墓石に供え、赤い鎧姿のまま手を合わせて祈りを捧げる。
レガート・ルシヴァニア
アン・ルシヴァニア
二つの墓石には、黄の国の王と王妃の名が刻まれていた。
王都から南にある、自然が豊かで小さな町。...蒲公英が紡ぐ物語 第3話
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幼き誓い
長い廊下を進み、上の階へ続く階段を休み無しで上り、リンとレンはついに階段が終わる場所までたどり着いた。
閉じた状態の扉の前で二人揃って息切れし、膝に手を当てて体をかがめて息を整える。
「屋、上……?」
「そう、だよ……」
一足早く息が戻ったレンはリンが落ち着くまで待つ。しばらく経っ...蒲公英が紡ぐ物語 第2話
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黄の国の王子
黄の国王宮の中庭。薔薇が咲き乱れる庭園で二人の人間が対峙していた。一人は金髪に蒼い目の少年で、上質だが動きやすそうな服を着ている。もう一人は茶髪の女性で、赤い鎧に白のマントを着用している。二人はお互いに木剣を向き合わせていた。
少年は練習用の剣を両手で握り、正面の相手に振りかぶる...蒲公英が紡ぐ物語 第1話
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グミナはヴェノマニアの屋敷を眺め、自分と幼馴染の先祖へ思いを馳せる。
数百年も経ったのに何も変わっていない。帝国家は歴史に記された事を疑いもしないし、民は英雄の血を引いているのはベルゼニア家だと信じて疑わない。
強い力を秘めていた事も、勇者の血を引いている事を知らなかった幼馴染は、悪魔と化して...二人の悪魔 11
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出された譜面を見てうんざりする。だけど、私には拒否権なんて無い。
ボーカロイドとしてどんな歌も歌ってきた。大切な人に感謝を伝える歌や、恋に焦がれる歌。その他数多くの歌。歌うのが好きなのはそう作られたからなのか、それとも個人的な感情なのかは分からないけど、とにかく私は歌う事が好きで、多くの人に聞い...歌姫達の憂鬱
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夢なのか現実なのかも分からない。気が付いたら、一人でどこかの場所に立っていた。
ここはどこだったかな?
明るくは無いけれど真っ暗でもない、青空に灰色を混ぜたような空間で、しっかりと地面がある。馴染みのある場所のような気もするし、初めて来たような気もするし、懐かしいような気もする不思議な場所だっ...気まぐれな交差点で
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レンは実体化を止めて静かに佇む。耳の奥では、リンの言葉が木霊していた。
ありがとう。
命を狩る瞬間にその言葉を言われたのは初めてだ。何故だろうと疑問が湧き、直後にカイトの台詞が脳裏に蘇る。
「レンに命を狩られるなら良いと思ってるよ」
あれは、リンが自分の事を信頼してくれたと言う事なのか。
レ...黒の死神と人間の少女のお話 10
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窓から差し込む朝の日差しと、こめかみに当たるひんやりとした感覚でリンは目を覚ました。横向きにした頭を支えている枕は濡れていて、寝る直前に泣いていた事を思い出す。
「泣きながら寝ちゃったんだ」
苦笑して時刻を確認すると、覚えている時間から数時間しか経っていない。体を起こしてカーテンを開くと、朝に移...黒の死神と人間の少女のお話 9
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「峠は……たが……せん」
「いえ、先生は充分……ました」
リンは暗い視界の中、近くから聞こえる断続的な会話を聞いていた。
意識は朦朧としていたが、声の正体は医師と父である事は分かる。どうやら自分は眠りから目覚める寸前の状態らしい。現実と夢が混じり合ったような感覚がするから間違いない。
とにかく...黒の死神と人間の少女のお話 8
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リンが今まで読んだ楽しかった本の話、レンが死神として担当した人間の話。取り留めのない会話を交わして道を進み、市場に行く時にレンが実体化した場所に到着して足を止める。
高台の入り口から先は、レンは他の人間に見えない状態でリンを送る事にすると二人で話して決めていた。
太陽がほとんど沈み大分暗くなっ...黒の死神と人間の少女のお話 7
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店を出て最初に口を開いたのはレンだった。
「美味しかったですね。あの飲み物」
機会があればまた飲みたいとしみじみ言われ、リンは思わず吹き出した。
「そんなに気に入るとは思わなかったよ。……また一緒に行きたいね」
残り数日か、それとも数時間か。自分に残された時間はあと僅かなのは分かっている。
...黒の死神と人間の少女のお話 6
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あったかい。
リンはテーブルの上に置かれたカップを両手で包むように持ち、冬の冷えた空気で冷たくなった手をじんわりと暖めていた。
「寒い日はホットココアとか、ホットミルクとか欲しくなるよねぇ……」
冬は別に好きではないが、温かい飲み物が格別に美味しくなるのが良い。体の真ん中あたりから指先まで少し...黒の死神と人間の少女のお話 5
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「本当に大丈夫ですか? 護衛を付けた方が良いのでは?」
また引き止められた。
「だーかーら! 平気だってば!」
リンが声を荒げて返すのもこれで三回目だ。
実体化していない状態でリンの隣を歩くレンは、この家を出るのにどれ程時間がかかるのか、外に出るだけで日が暮れてしまうのではないかと考えてしまっ...黒の死神と人間の少女のお話 4
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人間のリンと死神のレンが出会ってから数日。家の者が部屋に来ない時間を見計らい、レンはリンの元を訪れていた。
コツコツと軽い物を叩くような音が部屋でした後、何処からともかく現れたレンを見つけて、リンは笑顔で駆け寄って歓迎する。
「レン、待ってたよ!」
最初こそレンは壁をすり抜けて部屋に入って来た...黒の死神と人間の少女のお話 3
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「言葉が通じて良かったわ。こうして話せるんだもの」
少女から笑みを向けられ、やはり人間とは良く分からないと考える。つい先程までは激しい怒りを見せていたのに、今ではそれを微塵も感じさせない。
「ねえ、あなたは幽霊? それとも、精霊みたいなものなの?」
「いえ、どちらでもありません」
好奇心溢れる質...黒の死神と人間の少女のお話 2
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人間と死神。
限りある命を持つ存在と、終わる事の無い命を持つ存在。生きる者と、命を終わらせる者。
本来なら、人間は死神の姿を認識する事は出来ない。死神が命を終わらせる為に目の前に現れても気が付く事は無く、ただ漠然と己の死期を悟るだけである。
ごく稀に、霊などを見る事が出来る人間が死神の姿に気が...黒の死神と人間の少女のお話 1
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偏った食事が原因の、俗に言う生活習慣病。
白衣を着た眼鏡の男性から告げられたのは、そんな言葉だった。己の不摂生に気が付かず、それを変えようともしなかった事を指摘され、部屋の窓際のベッドで上半身を起こしていたコンチータは羞恥で俯く。
何故自分はここにいるのかを男性に尋ねると、館の広間で倒れてい...恐ろしくない悪食娘 5