タグ「鏡音リン」のついた投稿作品一覧(84)
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プロローグ 二年前
賑う道から離れた裏道に、一人の少女がいた。鮮やかな金髪と大きな白いリボンが目立ち、顔つきはどこか高貴な雰囲気がある。近くには不機嫌な顔をした男、向かい合って会話をしていた。
「……その事は謝ったでしょう。怪我をしているのなら病院まで案内しますよ?」
「謝るだけじゃすまねぇって言っ...むかしむかしの物語 王女と召使
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悪ノ散華
『悪ノ王子』の処刑にざわめく黄の国王都。広場では準備の段階で見物客が集まっていた。断頭台が運び出された際に畏怖の声が上がるも、見物客は興味と期待を隠しきれない。
王子は粛清した者達と同様の方法で殺されるのだと。
執行は午後三時。刃が落とされる瞬間を待ちわびる民衆は、異様な熱気に包まれ...蒲公英が紡ぐ物語 第58話
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種を撒く者
「……王子は、そこまでの覚悟を」
話を聞き終え、メイコは沈痛な面持ちで呟く。ミクは病人のように青ざめ、信じられないと首を振った。
「嘘。嘘よ……」
話を受け入れられない様子の彼女へ、リンは憐れみの視線を送る。緑の兵が略奪をしていた事とレンがカイト王子を殺していないと知り、緑の王女は...蒲公英が紡ぐ物語 第57話
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悪ノ覚悟 正義ノ傲慢
どれくらい経ったのかな。
鉄格子をぼんやりと眺めて、リンはふと思う。閉ざされた地下牢では外の様子も分からない。格子付きの窓が天井近くにあるので、精々昼か夜かの区別が付く程度。就寝と起床の回数もでたらめになってしまい、時間の感覚はとっくに消えてしまった。
『悪ノ王子』の惨め...蒲公英が紡ぐ物語 第56話
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貫き通す嘘
浅い呼吸を繰り返してリリィは駆ける。長い金髪に軍服、剣と同じ長さの棒を腰に差した、かなり目立つ格好だったが、人気の無い道には彼女しかいなかった。
「流石にここら辺にはいない、か……」
息を整えながら周囲を見渡す。速度は落としたものの、足は動かし続けている。
王宮を脱出した直後は革...蒲公英が紡ぐ物語 第52話
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傲慢の先
女傑二人が激突する頃。
レンは逃げも隠れもせず、一人静かに自室の執務椅子に座っていた。剣は手元から離れた壁に立てかけているので丸腰。体術は心得ているが、敵に囲まれれば抵抗の甲斐無く捕えられる。それを充分認識した上で、革命軍が王子の許へ来るのを待っていた。
「やっと終わるんだな」
圧政...蒲公英が紡ぐ物語 第50話
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落とされた幕
夜が明けて太陽が姿を現し、空に朝日が昇る。新しい一日を迎えた王都はざわめきが生まれているものの、街は活気付いていなかった。店売りの威勢の良い声は響かず、家の前に出ている者は不安や緊迫を浮かべて王宮の方角を眺める。
戦いは今日で終わる。王都の住人は願望が多分に混ざった確信を胸に、こ...蒲公英が紡ぐ物語 第47話
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闇の真実
ほとんどの住人が寝静まり、ひっそりと静まり返った真夜中の王都。一般人なら余程の事情が無ければ外出をしない時刻に、一つの人影が暗闇に紛れて移動していた。足音を潜めて夜道を進み、やがてもう一つの人影と合流を果たす。
「すまない。待たせた」
「遅ぇぞ。捕まっちまったかと思った」
夜影に落ち...蒲公英が紡ぐ物語 第46話
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小さな王子様
国王夫妻が崩御し、王子の後見人となった宰相が権力を握ると、周りの環境に明らかな変化が訪れた。異常と言っても過言ではないとリリィは述べる。
「王様がいなくなったのを境にして、似たような境遇の人が増えていったんだよ」
上級貴族達が代わりに政務を行うようになってから、貧民街や道端の住人...蒲公英が紡ぐ物語 第45話
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辿る足跡
「来たね。やっぱ」
来ないはずが無い。リリィは座ったまま呟き、使用人室に現れたリンに顔を向ける。
「あれからちょっと迷ったよ。本当に聞いてもいいのかって」
リンは席に近づきながら返す。そもそも、得体が知れないのは自分も同じ。リリィが接している後輩メイドは、レン王子の姉であり黄の国王女...蒲公英が紡ぐ物語 第44話
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黄昏の攻防
結構遅くなっちゃたな……。
空は夕焼け。地面に伸びる影は長い。思ったよりも時間を使っていたのを認識し、リンは小走りに切り替えて帰路を急ぐ。早く帰らないとレンやリリィが心配する。
建物が並ぶ大通りには路地が多く、たまに近道として使っている場所もある。リンは目印の建物の角を曲がり、薄...蒲公英が紡ぐ物語 第43話
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崩壊の足音
武装した民衆が蜂起。その知らせは程なくして王宮へ届き、やがて黄の国正規軍と反乱軍は衝突する事になった。以前から発生していた騎士団と民衆との小競り合いとは違い、反乱軍はれっきとした組織として謀反を起こした。
悪ノ王子への不平不満を高めていた国民は反乱軍を革命軍と呼んで支持。正規軍は物...蒲公英が紡ぐ物語 第42話
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偽りの忠誠
黄の国騎士団が青の国へ出立して一カ月。
落ちぶれたとはいえ、一級品の装備に身を包んだ多勢の騎士団は瞬く間に海向こうの国を侵攻した。第三王子カイトが暗殺された事件によって混乱する青の国は勃発した戦争への対応が遅れ、各地を占領される事になった。
元々軍事力に劣り、後手に回ってしまった...蒲公英が紡ぐ物語 第38話
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姉と弟
外から響く音が徐々に小さくなる。体が揺らされ、リンはふと我に返った。
ああ。着いたんだ……。
王都に到着したと知らせる声がする。なら降りないといけない。そして早く王宮へ帰らないと。
近いはずの御者の声を遠くに聞き、リンは夢心地のままのろのろと馬車を降りる。後ろの乗客から文句を言われた...蒲公英が紡ぐ物語 第37話
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断罪の悪夢
立っているのか横たわっているのかも分からない。進んでいるのか止まっているのかも不確かな感覚。
これは夢だ。現実じゃない。
気が狂いそうな程の静寂が満ちた暗闇。果てなき闇の中。昨日も同じ夢を見た。だからこそ変に落ち着いていて、早く醒めろと強く願う。
「人殺し」
糾弾の声に振り返る...蒲公英が紡ぐ物語 第36話
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海の思い出
それは、不思議な出会いと素敵な秘密。
押しては返す波の音。穏やかな海に潮風が吹き、昼を過ぎた太陽が海辺を照らす。砂浜に伸びる二つの影が重なっては離れ、並んでは遠ざかる。
王宮を抜け出してこの海岸に遊びに来たリンとレンは、日の光に金髪を輝かせてはしゃぎまわっていた。
「ねえ。そろそ...蒲公英が紡ぐ物語 番外編 第0.5話
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望まぬ刃
リンが宰相に膝を屈した少し後。
緑の国王宮書庫。関係者以外は立ち入りを禁じられている部屋に、本や書類が広がっている一角があった。資料に埋もれるようにして、翡翠色の髪の少年が椅子に座って突っ伏している。
「む……」
身じろぎをして瞼を上げ、クオはぼんやりして間近にあった本の背表紙を見...蒲公英が紡ぐ物語 第33話
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双子の決意
緊急の会議という名目で貴族達を招集し、レンは上座から会議室を見渡す。流石に王子直々の命令を無視する者はおらず、宰相のスティーブを始めとした上級貴族や大臣のジェネセルなど、現在黄の国を動かしている有力者達が一堂に会していた。
「王子殿下。いかがなさいましたか」
スティーブが口を開く。...蒲公英が紡ぐ物語 第32話
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曇り空の未来
レン王子一行が帰国して三日が過ぎた。緑の国の晩餐会という行事で足が地に付かない雰囲気だった黄の国王宮には平常が戻り、王宮で生活をしている者達に安心感をもたらしていた。
しかしそれは全体として見た場合であり、実際はいつもと違う空気が漂っている。重苦しい雰囲気を察している者は憂鬱を感...蒲公英が紡ぐ物語 第31話
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燻ぶる想い
まだ十四歳なのに随分重いものを背負っているな。それとも背負わされているのか。
先程別れたばかりの少年を思い出し、カイトは釈然としない気分を抱えて会場内を歩いていた。
レン王子の言葉や心掛けは一国の王子として何も間違った所は無い。彼も本心から言っていて、嘘や偽りなどないのは断言でき...蒲公英が紡ぐ物語 第30話
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祝いの晩餐会
緑の国王女ミク・エルフェンの十六歳の誕生日を祝う晩餐会は、緑の王宮大広間で行われる。調度品が飾られた会場には既に客人が集まり、並べられた円卓には色とりどりの料理が置かれていた。
浅葱色の髪をした壮年の男性が雛壇に立ち、会場を包んでいたざわめきが一瞬で静まる。
クオ王子とミク王女の...蒲公英が紡ぐ物語 第29話
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侍女の想い人
緑の王宮回廊を金髪の少女が進む。時折窓から外を眺めつつ、リンは人気のない廊下を歩いていた。
王宮よりも千年樹の方が見る価値がある。リリィから教えられた時は緑の国に敬意が無さ過ぎると少々呆れたが、実際に王宮内を見学すると何故そう言ったのかがよく分かった。
黄の王宮と構造はもちろん...蒲公英が紡ぐ物語 第28話
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変化を望む者
あてがわれた来賓用の客室で、リンはベッドに仰向けで寝転んでいた。時計の秒針が静かに響く部屋には他に誰もおらず、ぼんやりと天井を眺める。
部屋に案内されて一段落ついた後、レンはミク王女とクオ王子に話があると言って隣の部屋から出掛けている。当然騎士二人はレンの護衛に付いているのでリン...蒲公英が紡ぐ物語 第27話
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緑の兄妹
森を出たリンとレンは、はぐれた護衛騎士とようやく合流を果たした。騎士曰く、土地勘のない森の中を動くより入り口で待っていた方が安全だと判断した。らしい。
「レン王子の姿が見えなくなり、ご心配しておりました」
尤もらしい意見を述べた後にそう言われた時、レンの拳が微かに震えていたのに気が付...蒲公英が紡ぐ物語 第26話
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各々の悩み
「ふあ……」
黄の国王宮。日の光がさんさんと降り注ぐ中庭で、リリィは口を押さえて大きく欠伸をする。庭園を抜けるそよ風が、腰近くまで伸びた金髪を揺らした。
暑すぎず寒すぎず、吹く風も気持ち良い。外出をしたり外で遊んだりするには絶好の季節。庭師が丁寧に手入れをし、花壇に綺麗な花をいくつ...蒲公英が紡ぐ物語 番外編 第19.5話
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守る為の力
リンとレンが見張る前で、野盗達がほうほうの体で逃げて行く。その姿が獣道に入って茂みへ消えるまで、レンは剣の構えを崩さなかった。
森を移動する音が徐々に遠く小さくなり、やがて耳を澄ましても聞こえなくなる。野盗達が完全に去ったと分かり、リンは胸を撫で下ろす。
「……ふう」
同時に緊張...蒲公英が紡ぐ物語 第25話
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猛る獅子
「何!? 何なんですか!?」
腰を浮かしかけたリンの頭をリボンごと押さえ、レンは屈んだまま怒声を上げる。
「まだ立つな! 何かいる!」
非常事態を知らせつつ左手で剣の柄を握る。緊迫した表情で周りを瞬時に見渡し、矢が飛んで来た方向を探った。森の中でぎらりと何かが反射する。
「っ!」
...蒲公英が紡ぐ物語 第24話
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お伽話と千年樹
森の中の道は馬車が走れるほど広くは無く、街道のように舗装もされていない。しかし人が歩いて踏み固められた獣道は歩きやすく、周りの木々や茂みに入らなければ迷う心配はなさそうだ。
太陽が程良く遮られ、枝葉から漏れた光がリンとレンの金髪を照らす。そよ風が葉を揺らす音は優しく、散歩には最...蒲公英が紡ぐ物語 第23話
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西の隣国
ミク王女からの招待状が届いた二日後。黄の国王宮のレンの私室で、リンは思わず聞き返していた。
「え? 私が、ですか?」
「ああ。いつもはリリィを連れていくんだけど、今回はリンベルに同行してもらう」
王子が出席した会議の終了後にレンから呼び出しを受け、リンは侍女として大きな仕事を言い渡さ...蒲公英が紡ぐ物語 第22話
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東西の仲
「ああ、おやつの時間だな」
王宮の中庭に届く優しい音色。城下の教会が鳴らす鐘は昔と遜色なくリンの耳に響き、レンが言ったようにおやつの時間を知らせていた。
薔薇が咲き乱れる庭園の一角、木漏れ日の下にあるテーブルと椅子は、王族一家にとって憩いの場所だった。かつては四人で囲んだ白い円卓には...蒲公英が紡ぐ物語 第21話