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内なる敵
騎士団が出立した黄の国の王宮。剣の稽古帰りにリリィを見かけ、レンは通りがけに尋ねた。
昨日からリンベルの姿が見えないが、何か聞いたりしていないか。
リリィは首を横に振る。行方を知っているかもしれないとなけなしの期待をかけていたが、彼女も事情が分からないらしい。
「一昨日の……確か夕方...蒲公英が紡ぐ物語 第34話
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望まぬ刃
リンが宰相に膝を屈した少し後。
緑の国王宮書庫。関係者以外は立ち入りを禁じられている部屋に、本や書類が広がっている一角があった。資料に埋もれるようにして、翡翠色の髪の少年が椅子に座って突っ伏している。
「む……」
身じろぎをして瞼を上げ、クオはぼんやりして間近にあった本の背表紙を見...蒲公英が紡ぐ物語 第33話
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双子の決意
緊急の会議という名目で貴族達を招集し、レンは上座から会議室を見渡す。流石に王子直々の命令を無視する者はおらず、宰相のスティーブを始めとした上級貴族や大臣のジェネセルなど、現在黄の国を動かしている有力者達が一堂に会していた。
「王子殿下。いかがなさいましたか」
スティーブが口を開く。...蒲公英が紡ぐ物語 第32話
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曇り空の未来
レン王子一行が帰国して三日が過ぎた。緑の国の晩餐会という行事で足が地に付かない雰囲気だった黄の国王宮には平常が戻り、王宮で生活をしている者達に安心感をもたらしていた。
しかしそれは全体として見た場合であり、実際はいつもと違う空気が漂っている。重苦しい雰囲気を察している者は憂鬱を感...蒲公英が紡ぐ物語 第31話
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燻ぶる想い
まだ十四歳なのに随分重いものを背負っているな。それとも背負わされているのか。
先程別れたばかりの少年を思い出し、カイトは釈然としない気分を抱えて会場内を歩いていた。
レン王子の言葉や心掛けは一国の王子として何も間違った所は無い。彼も本心から言っていて、嘘や偽りなどないのは断言でき...蒲公英が紡ぐ物語 第30話
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祝いの晩餐会
緑の国王女ミク・エルフェンの十六歳の誕生日を祝う晩餐会は、緑の王宮大広間で行われる。調度品が飾られた会場には既に客人が集まり、並べられた円卓には色とりどりの料理が置かれていた。
浅葱色の髪をした壮年の男性が雛壇に立ち、会場を包んでいたざわめきが一瞬で静まる。
クオ王子とミク王女の...蒲公英が紡ぐ物語 第29話
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侍女の想い人
緑の王宮回廊を金髪の少女が進む。時折窓から外を眺めつつ、リンは人気のない廊下を歩いていた。
王宮よりも千年樹の方が見る価値がある。リリィから教えられた時は緑の国に敬意が無さ過ぎると少々呆れたが、実際に王宮内を見学すると何故そう言ったのかがよく分かった。
黄の王宮と構造はもちろん...蒲公英が紡ぐ物語 第28話
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変化を望む者
あてがわれた来賓用の客室で、リンはベッドに仰向けで寝転んでいた。時計の秒針が静かに響く部屋には他に誰もおらず、ぼんやりと天井を眺める。
部屋に案内されて一段落ついた後、レンはミク王女とクオ王子に話があると言って隣の部屋から出掛けている。当然騎士二人はレンの護衛に付いているのでリン...蒲公英が紡ぐ物語 第27話
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緑の兄妹
森を出たリンとレンは、はぐれた護衛騎士とようやく合流を果たした。騎士曰く、土地勘のない森の中を動くより入り口で待っていた方が安全だと判断した。らしい。
「レン王子の姿が見えなくなり、ご心配しておりました」
尤もらしい意見を述べた後にそう言われた時、レンの拳が微かに震えていたのに気が付...蒲公英が紡ぐ物語 第26話
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各々の悩み
「ふあ……」
黄の国王宮。日の光がさんさんと降り注ぐ中庭で、リリィは口を押さえて大きく欠伸をする。庭園を抜けるそよ風が、腰近くまで伸びた金髪を揺らした。
暑すぎず寒すぎず、吹く風も気持ち良い。外出をしたり外で遊んだりするには絶好の季節。庭師が丁寧に手入れをし、花壇に綺麗な花をいくつ...蒲公英が紡ぐ物語 番外編 第19.5話
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守る為の力
リンとレンが見張る前で、野盗達がほうほうの体で逃げて行く。その姿が獣道に入って茂みへ消えるまで、レンは剣の構えを崩さなかった。
森を移動する音が徐々に遠く小さくなり、やがて耳を澄ましても聞こえなくなる。野盗達が完全に去ったと分かり、リンは胸を撫で下ろす。
「……ふう」
同時に緊張...蒲公英が紡ぐ物語 第25話
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猛る獅子
「何!? 何なんですか!?」
腰を浮かしかけたリンの頭をリボンごと押さえ、レンは屈んだまま怒声を上げる。
「まだ立つな! 何かいる!」
非常事態を知らせつつ左手で剣の柄を握る。緊迫した表情で周りを瞬時に見渡し、矢が飛んで来た方向を探った。森の中でぎらりと何かが反射する。
「っ!」
...蒲公英が紡ぐ物語 第24話
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お伽話と千年樹
森の中の道は馬車が走れるほど広くは無く、街道のように舗装もされていない。しかし人が歩いて踏み固められた獣道は歩きやすく、周りの木々や茂みに入らなければ迷う心配はなさそうだ。
太陽が程良く遮られ、枝葉から漏れた光がリンとレンの金髪を照らす。そよ風が葉を揺らす音は優しく、散歩には最...蒲公英が紡ぐ物語 第23話
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西の隣国
ミク王女からの招待状が届いた二日後。黄の国王宮のレンの私室で、リンは思わず聞き返していた。
「え? 私が、ですか?」
「ああ。いつもはリリィを連れていくんだけど、今回はリンベルに同行してもらう」
王子が出席した会議の終了後にレンから呼び出しを受け、リンは侍女として大きな仕事を言い渡さ...蒲公英が紡ぐ物語 第22話
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東西の仲
「ああ、おやつの時間だな」
王宮の中庭に届く優しい音色。城下の教会が鳴らす鐘は昔と遜色なくリンの耳に響き、レンが言ったようにおやつの時間を知らせていた。
薔薇が咲き乱れる庭園の一角、木漏れ日の下にあるテーブルと椅子は、王族一家にとって憩いの場所だった。かつては四人で囲んだ白い円卓には...蒲公英が紡ぐ物語 第21話
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変わるもの、変わらないもの
リンがリンベルとして王宮に仕えるようになり三ヶ月。
先輩のリリィから指導を受けつつ、リンは王子直属のメイドとして働いていた。最初の頃は激変した王宮に戸惑ったものの、玉座の間や王子の私室までは派手になってはおらず、おそらく上層部の貴族がやったのだろうと判断が出来、レン...蒲公英が紡ぐ物語 第20話
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もう一人の召使
黄の国王宮の一室。体格に対してやや大きめの執務机で書類作業に追われていた少年に、長い金髪のメイドは一つの連絡を届けた。
「……ああ、そっか。今日だったっけ」
金髪の少年は仕事の手を止め、今思い出したかのように言う。王宮に新しいメイドが入るのは以前から聞いていたのに、いざ当日にな...蒲公英が紡ぐ物語 第19話
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久方振りの故郷
三年ぶり……。いや、正確には六年ぶりになるのかな。
降りる人達の邪魔にならない位置に佇み、リンは久しぶりの故郷を眺める。王宮を追放されてからの三年間は王都の外れにある貧民街で過ごしていたし、キヨテルに拾われてからの三年間は港町近辺から出る事は無かった。
王都の大通りに馬車が到...蒲公英が紡ぐ物語 第18話
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人の縁
青の国最南端の港町にて。
屋敷で執務を行っていたカイトは、最後の書類を読み終えて判を押す。案内人業が中心とはいえ、王子として報告書に目を通すのも仕事の内だった。
「ふう……」
肩のこる事務作業から解放されて伸びをする。王子として政治に関わるより、案内人として観光客を相手にする方が性に...蒲公英が紡ぐ物語 第17話
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新しい思い出
「王子とは言っても、俺はそこまで高い地位にいる訳じゃないんだ」
梯子を脇に抱えたまま、カイトは隣を歩くリンに自分の立場を話す。
上の兄達とはかなり歳が離れ王位継承権も低い。王宮に顔を出す事はあるが、それも年に片手で数えられる程度。何かと面倒な事の方が多い為、適当な理由をつけては王...蒲公英が紡ぐ物語 第16話
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青の島
下船の際に銀髪の二人と別れ、リンは初めて異国に足を踏み入れた。港町の通りを歩く人は多く、土産屋や露店からは活気が感じられる。地元の住人と国外からの旅行者が入り混じり、その光景が当たり前のような雰囲気だった。大勢の観光客が訪れる為か、道沿いには宿が並び立つ。
青の国の滞在は五日間。最初の...蒲公英が紡ぐ物語 第15話
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船旅の出会い
黄の国と緑の国は陸路で行き来が出来るけれど、青の国へは海路しか存在しない。大陸と島は海で分けられている為、移動には絶対に船が必要になる。
黄からでも緑からでも、船に乗らなくちゃいけないのは分かっている。移動も旅行の楽しみの一つではある。いつもは見ているだけの旅客船に乗り込んだ時の...蒲公英が紡ぐ物語 第14話
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よそ者の家族
広くも狭くもない部屋で、リンはユキを抱えるようにしてソファに座っていた。腕を軽く伸ばして本を開いていて、ユキの目の前で本をめくる。
「……二人は鉄屑の山から抜け出して、外の世界へと飛び出しました。二人の出会いは一つの冒険の始まりであり、一つの奇跡の始まりでもありました。おしまい」
...蒲公英が紡ぐ物語 第13話
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変化の一石
ドアを激しく叩く音。声がかき消されそうな中、レンは顔を上げて少女に簡潔に伝えた。
「ごめん。多分騒がしくなる。君は傷つく事を言われるかもしれない」
椅子から立ち上がって部屋の入り口に向き直る。同時にドアが開き、年配の男が入って来た。続けてトニオとアルが入室し、閉めたドアの両脇に立つ...蒲公英が紡ぐ物語 第12話
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救う者 救われた者
後は自分達に任せて欲しい。二人からそう言われて、レンは後ろ髪を引かれる思いをしながら、その意見を聞き入れる事にした。
本音を言うなら、救助隊に加わってリンを捜したい。しかし、先程トニオが指摘した通り、もうそんな事をする体力は残されていない。行った所で周りに迷惑をかけるだけだ...蒲公英が紡ぐ物語 第11話
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命の重さ
騎乗したレンは王都の中心部を駆け抜け、貧民街に一番近い地区を突き進んでいた。風を切りつつ街を見てみると、どうやらここまでには火の手が回っていないらしい。その事に安堵を覚えたが、レンは不安と恐怖を抱えたままイノベータを走らせる。
「何で……。何で!」
双子なのに。王女なのに。どうしてリ...蒲公英が紡ぐ物語 第10話
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独りの夜
「……くそっ!」
他の誰かに聞かれれば品格がどうだ、王子としてふさわしくない事をするなと言われただろうが、幸い周りには誰もいない。と言うより、それをしっかり確認してから悪態を吐いたレンは、夕陽が照らす王宮の回廊を苛立たしく進む。
リンと引き離されてから三年。その間に、レンを取り巻く環...蒲公英が紡ぐ物語 第9話
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救済の手
馬車って、こんなに揺れる物だったんだ。
揺れが少ない箱馬車しか乗った事が無いリンは、一般に使われている馬車便に驚きと新鮮さを感じずにはいられなかった。右隣にはキヨテルが、左隣には名前も知らない人が当然のように座っていて、向かいの席にも目的地が同じ人達が並んで座っていた。
薄汚れた服...蒲公英が紡ぐ物語 第8話
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拾った命
路地裏で倒れているリンを見つけて、眼鏡の男性は即座に路地へ駆け込む。
「いた! 君、しっかりするんだ」
屈みこんでリンの体を仰向けにし、体に負担をかけないように注意して上体を起こす。肩を軽く触るように叩いて呼びかけても応答は無い。
念の為に脈と呼吸を確認する。幸いどちらも問題は無か...蒲公英が紡ぐ物語 第7話
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生き延びる意志
「待てぇ! この盗人!」
背中に怒声を浴びせられ、しくじった、とリンは内心で悪態を吐く。走りながら振り返ると、商品を盗られて立腹した店の主人がこちらに向かって来るのが見えた。後ろの確認は最小限にして、前を向いて全速力で王都の通りを駆ける。
捕まってたまるか。
継ぎ接ぎだらけの...蒲公英が紡ぐ物語 第6話
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