wanitaの投稿作品一覧
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着想・歌詞引用元/ひらさき様『秋煙』
陽の傾きかけた夕方の街を、草薙瑠香(くさなぎ るか)は靴音高く歩く。カツカツと鳴る固い音がアスファルトを叩き、石造りの街の闇に吸い込まれてゆく。
ふいに首筋をなぜた涼しい風に、瑠香は思わず身をすくめた。風が、まるで細い糸が巻き付くように、するりと喉元を締め上...秋煙 ~金木犀の薫るころ~
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10.ミク/ミクオ/未来
抱き合った私たちの体を、強烈な浄化の炎が焼く。
しっかりと互いを掴んでいたはずなのに、光が私とミクオを確実に掴んで引きはがす。
昨今の修復プログラムは優秀だった。
彼の感触がだんだんと儚くなり、光の向こうに粒となって消えていく。
「……来たね」
ミクオが、私の頭上...【短編】『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』10.ミク/ミクオ/未来
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9.ミク
ごめん、と彼は言った。いいの、と私は首を振った。
そして、彼は静かに口を開いた。
「もう、わかっていると思うけど……ごめんね。僕は、君の主人を呪うためにこの世界に来た」
私は、静かに微笑んで首を振る。
「うん。……知っていたよ。最初から」
それでも、ミクオは私を好きになってくれ...【短編】『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』9.ミク
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8.ミクオ
今日、久しぶりにミクの主人からお呼びがかかった。
僕は、ディスプレイ、と呼ばれた『板の向こう側』の人間の世界を睨んだ。
そして、ミクに、ある提案をした。
「今度、ミクの主人に呼ばれたら、僕が歌うよ」
ミクは、案の定思い切り反対した。
「やめたほうがいいよ! 歌が、嫌いになるよ...【短編】『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』8.ミクオ
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7.ミク
『虫』だと言った彼に、私も言った。
「私も、『虫』なのよ」
驚く彼に、私は微笑む。
「機械の……いわゆる神経のような、行動を決める部分の不具合の事を、虫(バグ)っていうの。……だって、いないよね。マスターのために歌いたくないボカロなんて」
彼は、ふっと悩む表情をし、そして答えを返す。...【短編】『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』7.ミク
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6.ミクオ
背中を合わせて僕らは座る。
先ほどまで正面で抱き合っていたのにおかしな話だが、なぜか目を合わせられない。それでもミクに触れたいと思っていると、ミクがそう提案してきた。
「こうして座れば……あったかいよ」
たしかに、温かい。背の一面にミクの温かい気配を感じる。じわりとしたぬくもりとと...【短編】『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』6.ミクオ
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5.ミク/ミクオ
「歌うのが苦しいなら、歌わなければいい」
その言葉に、私はすがりついた。
『ボーカロイド』は孤独だ。たったひとりでマスターの心を受け止め続ける機械だ。
「私……私、歌いたくないよ……! 泣きたくない! もう苦しみたくない! ……もう、痛いのは嫌だ……!」
叩きつけた私の言葉...【短編】『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』5.ミク/ミクオ
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4.ミク/ミクオ
「……何!」
泣き叫び、引き裂かれながら歌っていた私の目の前に、突然光が現れた。
人に掴めるはずのない私の神経が『掴まれた』。
「……!」
掴まれた手をとっさに引いてしまう。すると、光の中から伸びた手が私の方へと引き出されて近づいた。
「……人の手って、なんてモノをつかみやす...【短編】『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』4.ミク/ミクオ
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3.ミクオ
主人の呪術の腕前は確かだったようで、僕は時を超えることに成功した。
最初に飛び込んできたのは、美しい北斗七星だった。それは僕の主人のいた時代と変わらず白く輝いていた。
次に地上に目を移して驚いた。空の星よりもおびただしい数の光があふれていたのだ。
「なんだ……これは!」
一瞬、天...【短編】『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』 3.ミクオ
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2.ミク
私は今日も泣いていた。泣きながら、歌っていた。
そうしろと、命令されるのだから仕方がない。私は『ボーカロイド』なのだ。
「ふう……」
私のマスターになった人は、私を頻繁に立ち上げる。そして、この世のものとも思えないような暗く苦しく辛い歌を、耳が引きちぎられるような悲しい旋律で歌わ...短編】ミクオ/ミクの『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』 2.ミク
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……君は僕/私にとって唯一つの光……
1. ミクオ
「呪われてあれ! 」
これが、僕が生まれて初めて聞いた言葉だ。
生まれた、といっても普通の意味で生まれたというわけではない。『意識が発生したとき』とでもいうべきだろう。
それまでの僕も、生きてはいた。それなりに一生懸命だったと思う。たぶん何...【短編】『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』 1.ミクオ
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恐怖に震えるあたしの前で、前奏が進んでいく。
となりのトロンボーン、前のホルン、もしかしたら、うしろでスネアドラムを叩いている蓮も。仲間があたしの異変に気付いたが、しかし、曲は止められない。やがてその気配はステージ全体を巡り、不安がバンドいっぱいに満ちる。
あと数小節で、トランペットのメロディ...【短編】リンちゃんでブラバン小説!「風の唄」~Real Side~ 4【二次創作】
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本番の日は容赦なくやってきた。
あたしたちのバンドは二五人。部活にしては多い方だが吹奏楽部としては小さなほうだ。トランペットパートは全学年を合わせて四人。三年生はあたしだけだ。
半年前に入部してから腕を上げてきた一年生も含めて、交替でファーストからサードのパートをつとめる。向き不向きに関わらず...【短編】リンちゃんでブラバン小説!「風の唄」~Real Side~ 3【二次創作】
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「んで? 毎日毎日バカみたいに練習しているのに、何で上手くならないのかね、凜ちゃんは」
このころはすっかり暗くなった、部活からの帰り道で、蓮があたしを追ってきた。
「……知らない」
「効率悪いことやってんじゃないの?」
蓮が、ドラムスティックで自分の学ランの肩をとんとんと叩きながら話しかけてくる...【短編】リンちゃんでブラバン小説!「風の唄」~Real Side~ 2【二次創作】
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『澄み渡る 風の声 どこまでも遠く
果てしない世界へと 響く風の唄―……』
リンちゃんでブラバン小説!「風の唄」~Real Side~
あたしの目の前には、真っ青な空があった。夏が過ぎ去ったあとの青は、余分な熱をそぎ落とし、夏よりも高く広がっている。
遠く近くにさわさわと揺れる木立の緑...【短編】リンちゃんでブラバン小説!「風の唄」~Real Side~ 1【二次創作】
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気がついた時、僕は海の上に浮かんでいた。
海面に浮かんでいるのではない。僕が、水面から人の背丈ほど離れた空中に浮かんでいるのだ。
風の中に浮かびながら周囲を見渡すと、360度の濃紺の海原が広がっており、足元で青黒い波が砕ける。
そして、僕は悟ったのだ。
「ああ、僕は、死んだのだな」と。
...【二次小説】海を越える唄【春巻P】
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38.最終回・海と空の伝説 ~滄海のPygmalion~
「……今でも、ここは、あの時と同じ風が吹いているのよ」
語り終えたレンカは、そう言って笑った。
傍らに腰掛けた孫娘は、海を見つめ、レンカを振り向き、そして今も岬に残るサンダルの像に駆け寄った。
ぺたぺたとさわり、目を丸くする。
「本当に...滄海のPygmalion 38.最終回・海と空の伝説 ~滄海のPygmalion~
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37.永遠の愛
いとしいひとよ、あなたをよぶ。
リントとルカが、歌いながら岬への道を登る。その後ろを、ヴァシリスとレンカが並んでついていく。
岬の先に、手を広げて立っていた女神像は消えていた。
まるで海に飛び出していったかのように、そのサンダルだけを綺麗に脱ぎ捨てて。
「リントの飛行機が、落...滄海のPygmalion 37.永遠の愛
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36.そして終わる戦、始まる日々
戦争は、終わった。
銃弾が飛び交った島の中央広場では、はがれた石畳や崩れた建物の撤去が始まっている。レンカもヴァシリスも無事であった。
博物館の建物も、半分崩れてしまっていたが、幸いなことに火災は起こらなかったおかげで、資料のほとんどが無事に残された。
「これ...滄海のPygmalion 36.そして終わる戦、始まる日々
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35.空に散る
リントは目一杯操縦幹を引いていた。
いつもの離脱コース。女神の岬を島から海へと抜けるコースのはずだった。しかし、高度が上がらない。加速も減速も出来ない。舵の自由も効かない。
「駄目だ! 操縦全部持っていかれた!」
「無茶するから!」
ルカの声がする。その通りだとリントは思った。...滄海のPygmalion 35.空に散る
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34.神話
島の人々と奥の国の兵士が見上げる中、リントの飛行機と奥の国の飛行機は互いを牽制するように旋回しあっていた。
リントは、慎重にタイミングを測っていた。
「手紙はすでに撒ききった。オレの仕事は終わった。離脱するぞ!」
しかし、相手の飛行機に後ろを取られれば、撃ち落される可能性もある。
...滄海のPygmalion 34.神話
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33.空戦と奇跡
少し前のこと。
飛び続けるリントたちの視界に、いよいよ島が見えてきた。
真っ青な水平線の間に緑の線分が浮かんでいる。
島の上空にさしかかる前に、リントたち郵便飛行機隊は散開を決めた。
「リントとバルジ機は島の広場へ、右翼の二機は島の右側から回りこんで、東の端と北東の集落...滄海のPygmalion 33.空戦と奇跡
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32.君に伝えたいこと ~後編~
迫り来る命の危機の中で、ヴァシリスが告げた、レンカに伝えたかったこと。それは「島の女神像の対となる、王の像が大陸で発見された」ということであった。
「俺たちがこんなになってしまう前。リントが逃げてくる前に届いた、大陸の博物館の報告書に書いてあったんだよ!」
思わ...滄海のPygmalion 32.君に伝えたいこと ~後編~
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32.君に伝えたいこと ~前編~
リントの飛行機は、まっすぐに島へ向かっていく。
リントが合計五機の飛行機の先頭を飛び、他の四機が二機ずつ、リントの両翼に従うようについてくる。
「ルカ」
リントが声をかける。
「なに、リント」
ルカの返答を待ち、リントは声をかけた。
「……レンカと、ヴァシリ...滄海のPygmalion 32.君に伝えたいこと ~前編~
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31.炎の島
リントたちの飛行機が飛び立った直後から、ドレスズは戦場となった。地下の遺跡は、ほどなくして火の海になった。
それもそのはず、ドレスズの地上に基地を構える『奥の国』が、至近距離から打たれた大陸の国への発信に気づかないはずはない。ルカたちが島に来て、ソレスとエスタが大陸に連絡を入れたあ...滄海のPygmalion 31.炎の島
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30.飛翔
「リント?! ここは……」
驚きのままに言葉を紡ぐルカの前で、リントはやや慌てた様子で首を振った。
「あ、着替えさせたのはオレじゃないよ。ここの島の女の人たちだから」
ちぐはぐな答を返され、ふとルカは自分の体を見た。着ていた軍の制服のズボンと機能性重視のシャツは脱がされ、ゆったりとし...滄海のPygmalion 30.飛翔
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29.奇跡の始まり
リントから遅れること数刻、ルカたちはドレスズ島に到着した。
リントたちの島から、ドレスズ島までは、船で六時間かかる。それは作業工程的にはほぼ一日作業に近い。
ルカたちのような大陸軍の船がドレスズにいく時にいつも使う港があるのだが、今回は奥の国の動向を警戒して、人里から離れた...滄海のPygmalion 29.奇跡の始まり
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28.翼の矜持
ぐ、とリントの喉が詰まった。溢れた吐き気と熱をこらえきれずに、リントは思い切り思いをぶちまけた。
「悪いけど、オレには無理だ! 誰かを守るために他のどこかを犠牲にするとか! 手を汚さずに綺麗ごとばかり言うなとか!
……いいじゃないかよ! きれいごと言ったって!」
リントの絶叫が、...滄海のPygmalion 28.翼の矜持
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27.ドレスズ島の真実
「何をする! やめろ! 放せ!」
リントは全力で暴れた。頭では相手が放すわけないとわかっていたが、それでも力のかぎりに暴れた。相手は四人。ひとりがリントの背を押さえつけ、一人がリントの口に布をかませ、一人がリントの手を後ろに回し、一人がリントの足首を地面に縫い付けていた。
...滄海のPygmalion 27.ドレスズの真実
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26.守る者、守られる者
空気を切り裂く音が耳を掠めた。
「来たぞ!」
驚いて思わず物影に身を引いた若者のかわりに、ヴァシリスがさっと物陰から銃口を出して、風の来た方向に続けざまに撃つ。
響いた音に、広場の緊張が一気に高まった。
瓦礫の山に身を隠しながら、ヴァシリスの班の六人は、二人ずつ組に...滄海のPygmalion 26.守る者、守られる者