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【カイメイ】シスター・コンプレックス

「新しい女性ボーカロイドをインストールしたい」

マスターの口からそう告げられた時、思った。
ああ、ついにこの日が来たんだ、と。

覚悟していた瞬間の訪れは、予想よりもずっと穏やかだった。
もっと衝撃的で、絶望的だと思っていたのに、私はまだまっすぐマスターの顔を見ることが出来ている。



「名前は『初音ミク』。これが設定資料だ」
マスターから手渡された紙の束をめくる。そこに書かれた、新しいボーカロイドの詳細。

 初音ミク。
 16歳。
 バーチャルアイドル。
 新型のボーカロイドエンジン。
 エメラルドグリーンのツインテール。
 清楚で可愛らしい、正統派美少女の容姿。

彼女を表す言葉の羅列が目から飛び込んで、映像化していく。
そして目を引いたのは、最後の一文だった。
『彼女の声質はとてもチャーミングで、伸びやかに天まで昇るような高音域、清楚で可憐な中高音域がとても魅力的』
…ああ、きっと彼女なら、マスターの好きなアイドルポップスもぴったりだろう。

「いいんじゃないですか」
自分でも驚くほど、明るい声が出た。顔の筋肉もいつも通りの笑顔を保てているはずだ。
「可愛いし、大賛成です」
「そうか?」
私の言葉に息を吐いた、マスターの顔。
曲が完成したときと同じような、ほっとしたような表情。
私をわざわざスタジオに呼び出して直接話をしたということは、マスターが求めていたものは旧型(私)からの許可。翻せば、新型(彼女)をこれから第一線で使っていきたいという意思表示だ。



彼女のインストール日はまた日を追って伝える、とマスターに告げられ、私はスタジオを辞した。
(初音ミク)
(新型エンジンの、女性ボーカロイド)
…これからきっと、彼女がマスターの歌姫になる。

つくん、と一瞬胸が痛んだような気がしたけれど、目を伏せてそのお門違いの感情に蓋をする。
データで送れば済むのに、マスターは私をスタジオに呼んで直接話してくれた。
私はボーカロイドだ。人間ではない。クリックひとつでアンインストールしてしまえる存在。
なのに、それを使い捨てにしない人が私のマスターだった。それだけで、十分じゃないか。彼の元でたくさんの歌を歌って、私は幸せだった。
何度も何度もそう自分に言い聞かせながら、私は仮想空間の中をぼんやりと歩く。
家からスタジオを繋ぐこの光の道を、何度通っただろう。もしかすると、これが最後になるのかもしれないなと思うと、自然と歩む速度が遅くなった。


「めーちゃん、おかえり!」
「ただいま」
家に辿り着くとカイトがリビングから顔を出した。譜読みをしていたのだろう、手には楽譜を持っている。
いつも通りの言葉で私を迎えてくれたカイトに心配をかけないよう、私もいつも通りの表情で言葉を返す。
「今日は早かったねー」
「そう?」
「うん、マスターがめーちゃん呼び出すといつも帰りが遅いもん」
「そんなことないわ、あんたと同じよ」
「いーや、そんなことない。マスターがめーちゃんと一緒に居たいから長引かせてるんだよ絶対」
「何言ってんだか」
弟の脈絡のない主張に苦笑する。
本当はどちらかが外出から帰ってきたらリビングでひとしきりお喋りをするのが常だけれど、今日ばかりは部屋で一人になりたかった。
本心を悟られないように見慣れた青を振り返り、私はにこ、と微笑む。
「ごめんカイト、ちょっとやらなきゃいけないことがあるから、しばらく部屋にいるわね。晩御飯少し遅くなってもいい?」
「え?あ、うん、全然平気だけど」
「ごめんね、その代わり今日はあんたの好きなハンバーグにするから」
「やった!」
子供のように無邪気に喜ぶカイト。こんな何気ない会話も、もうじき出来なくなる。
つくんつくん、と自分の奥にくすぶる何かが存在を誇示し始める前に、私は笑ったまま部屋の中へ逃げ込んだ。

あけましてカイメイ!

気分転換がてらに書いていたらめめめっと筆が進みましたが何だかシリアスになってしまいどうしようこれどうやって着地したらいいのと思った結果、最終的にめーちゃんが愛されてればいいという通常運転に行き着きました。

!ご注意!
◆ミク発売直前のめーちゃんの葛藤です
◆相変わらず自分設定のマスター(30歳♂、喫煙者、長身、カイトにだけ口が悪い)が出張っています
◆二人はこの時点ではまだ『姉弟』です。カイ→→→←メイくらいの気持ち
◆二人が住んでるのはPCの中で、レコーディングする時だけスタジオ内で具現化するっていうイメージ

◆前のバージョンで続きます
◆ピアプロ版のみおまけあり。

投稿日時 : 2011/01/03 19:10    投稿者 :キョン子

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