甘音の投稿作品一覧
-
【リン】
「リン王女、青の商人の一行が黄の国の港を出たとの報告が入りました」
「そう」
私室の窓から城下を眺め下ろしながら、大臣の報告を聞いて目を細める。
ああ、やっと。
もうすぐ。
もうすぐ、きっと元通りになる。
「出兵の準備はとうに出来てるんでしょうね?」
「はい、勿論。明日にでも出発す...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第二十七話【カイミクメイン】
-
【ガクポ】
「それは確かか?」
青の王城の執務室。
大臣の報告を受け、眉を顰めて、改めて問い返す。
「はい、間違いありません。黄の国の軍が緑の国に向けて出兵したとの報告が入っております。国内の税の値上げと、黄の国の近頃の不審な動きと合わせて考えても、緑の国に対する侵略行為であるのは間違いありませ...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第二十六話【カイミクメイン】
-
【カイト】
長雨の季節が終わり、日差しが夏の到来を告げている。
久しぶりに来た黄の国の南部の村は、畑のあちこちに見える人影がせっせとその炎天下にも関わらず働いているのが見て取れた。
みんな相変わらず働き者だ。
その中で、親しい友人の姿を探す。
彼女の姿なら、遠目でもすぐに解かる。
赤い衣...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第二十五話【カイミクメイン】
-
【メイコ】
初夏の日差しがひりひりと肌を焼く。
今年は暑くなりそうだな、と空を見上げて思う。
シャツを肩まで捲り上げて。畑に生えた雑草を毟り取る。
それでも太陽は畑の恵みだ。その日差しを受けた分だけ熟して美味しくなる。手をかけても太陽や雨が味方をしてくれなければ、いい物は採れないのだから。
...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第二十四話【カイミクメイン】
-
【リン】
カイトさんが黄の国に入ったというのは、大臣の口から聞いた。
あの人は嫌いだけど、今はレンにも会いたくなかったから、情報の殆どは大臣の口から聞くものばかりだ。
レンと、もうどれくらい口をきいてないだろう。
それでも、会いたくなかった。
会ったらきっと、また酷い言葉を浴びせてしまうか...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第二十三話【カイミクメイン】
-
【レン】
カイトさんが黄の国に来たという話は、すぐに伝わってきた。
何しろ最近の市井での噂は殊更カイトさんとミクさんの話が多い。その噂の当人がやって来たのから当然と言えば当然だろう。
そして、この城下町に来れば、真っ先にこの城にやってくるのも、予想出来ていたこと。
これまでのリンなら、それこ...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第二十二話【カイミクメイン】
-
【カイト】
ミクと過ごす時間は幸せで、そしてあっという間に過ぎていく。
毎日のように会い、話し、歌う。
それだけで、この上なく幸せな時間だった。
けれど、緑の国を経つ時は日に日に迫ってくる。
養父が俺とミクのことを見逃してくれているのも、その間だけ。幸せな時など、本当に一瞬で過ぎ去っていく...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第二十一話【カイミクメイン】
-
【リン】
初めてカイトさんに会ったのは十歳の時だった。
まだお父様もお母様も生きていて、けれどレンとは引き離されていた。
五年経ってもわたしはレンと引き離されたことに納得がいかなくて、癇癪を起こしてはお父様やお母様を困らせてばかりいた。
いつも一緒に居たのに、傍に居たのに、どうして引き離され...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第二十話【カイミクメイン】
-
【レン】
あれからずっと、きょうだいに関する痕跡を探している。
父上や母上の私室だった部屋を探ってみても、昔から居る家臣にさりげなく問いかけてみても、手かがりはなかなか掴めない。
日記の一つでもあれば何か解かったのかも知れないけれど、二人ともどうやらそういうものはつけない人だったようだ。けれど...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第十九話【カイミクメイン】
-
【カイト】
暖かいというには少し暑くなってきた日差しを見上げて、高台の木の根元に腰を下ろす。ミクは未だ来ていないようだった。
高台は風がよく通ってそれが気持ちいい。
ピピピ、と小鳥の鳴き声がして、肩に、手に止まってくる。
「おはよう、いい天気だね」
そう声を掛けると、応えるように小鳥たちが鳴...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第十八話【カイミクメイン】
-
【ミク】
気持ちよく晴れた日だった。
そろそろ暖かいというよりは暑いと言ってもいいような感じ。
そんな陽気の中をあたしは駆け足で高台まで登っていく。急ぐ必要なんか無いと解かっていても、それでも勝手に足が走り出してしまう。
早く会いたい。
そんな気持ちが抑えられなくて。
高台の広場の入り口...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第十七話【カイミクメイン】
-
【カイト】
頭が痛い。
常に頭の中に響き渡る声が脳内を揺さぶるようで、気持ちが悪い。平衡感覚すら曖昧で、自分が起きているのか寝ているのか、それさえも解からない。
その声は只管に、ダメだ、ダメだと繰り返す。
誰も好きになってはいけない、許されないことなのだと。
思考さえままならない中で、以前...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第十六話【カイミクメイン】
-
【ミク】
アパートの自分の部屋で、ベッドに寝転ぶ。
枕に顔を埋めて溜息を吐いた。
もう、何が何だか解からなかった。
あたしが殺されそうになったところを、カイトさんが助けに来てくれて、今度はそのカイトさんが倒れてしまった。一体何が原因なのかさっぱり解からなくて、苦しそうなカイトさんを見ながらあ...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第十五話【カイミクメイン】
-
【ルカ】
物心ついたばかりの頃のわたしにとって、家の中全てが遊び場のようなものだった。
何しろ、うちは他の家よりも圧倒的に広かったし、色んな物が置いてあって興味のあるものは尽きなかった。けれど、離れにだけは近づくな、とお父さんからきつく言われていた。
しかし、子供にとってあれをするな、これをす...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第十四話【カイミクメイン】
-
【カイト】
家を抜け出して広場に向かう。
それにしても、養父はこの国に居る間中俺を閉じ込めておくつもりなのだろうか。
そんなことをしたって、何の意味もないのに。
広場に行けば、ミクとレンくんが何か話し込んでいた。随分真剣な表情をしている。一体何の話をしているんだろう。
二人に近づき、声を掛...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第十三話【カイミクメイン】
-
【ミク】
今日も天気が良い。
暫く晴天が続いているな、と思うとなんだかうきうきとした気分になる。特に春は、晴れている方が良い。
町の広場は今日も人がいっぱい居て賑わっている。
昨日は一人で居ると考え事をして歌えなかったけれど、今日はちゃんと歌いたい。昨日カイトさんと歌った所為もあってか、気分...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第十二話【カイミクメイン】
-
【レン】
昨日はカイトさんとミクさんに何も言わずに逃げ出してしまった。
流石にそのまま黄の国に帰る訳にはいかない。ミクさんも、カイトさんも心配しているだろう。二人とも優しい人だから。
広場に行けば、噴水の前でミクさんが歌っていた。
やっぱり綺麗な声だ。そして、楽しそうに歌う。そんなミクさんを...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第十一話【カイミクメイン】
-
【カイト】
昨日着ていた服よりも格段に仕立ての良い服を着て、俺は息を吐く。
養父に言われて大臣の娘と会うことになっているが、憂鬱でたまらない。いつもだって、それ程明るい気分という訳では無いが、これほどまでに憂鬱では無かっただろう。
しかし、此処まで来て会わないという選択肢も無い。
養父があく...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第十話【カイミクメイン】
-
【レン】
三時を知らせる鐘が鳴り響く。
「あら、おやつの時間だわ」
鐘の音を聞いて、毎日リンが言うお決まりの台詞。
「今日のおやつはなあに、レン?」
「ブリオッシュだよ、リン。君が好きだって言ってた」
「ほんと?嬉しいわ」
リンが無邪気に微笑む。
それを見ていると、僕の顔にも自然と笑みが浮か...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第九話【カイミクメイン】
-
【ミク】
良い天気だった。
春の日差しがぽかぽかと暖かい。
そんな中、あたしは広場で歌を歌う。昨日の、このくらいの時間にあの人と会ったんだな、と思うと腹が立ったり、憂鬱になったりするから、敢えて思考から取り払って。
もし来たとしても、口なんてきかない。無視だ、無視。
一曲歌い終わると、青い...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第八話【カイミクメイン】
-
【カイト】
自室のベッドに寝転びながら白い天井を見上げる。
溜息を一つ。
「ひどい。望んでなくたってやってるなら同じじゃないですか!最低です!もう話しかけてこないで下さい!!」
そのまま走り去る彼女を呼び止めようとしたけれど、そうしたところで、言い訳の言葉など思い浮かばない。
彼女の言葉は、...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第七話【カイミクメイン】
-
【ミク】
アパートから一歩外に出て、春の日差しを一杯に浴びる。
すう、と息を吸い込んでから声を出した。
「じゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい。今日はあたしも時間が空いたら聞きに行くからね」
「はい、有難う御座います!」
大家さんに聞いてもらえるなら、尚更気合を入れないと。
すっかり...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第六話【カイミクメイン】
-
【1】
私はカナリア 空の鳥
歌が大好き 幸せな鳥
空を飛んで 私は歌を歌った
歌う喜びを歌った
高い音 低い音 遠くまで
春の風を感じて 夏の日差しに向かって
私は歌う 秋の彩りを
喜びを 悲しみを どこででも
冬は寒くて でも私は好き...空のカナリア ソロver.
-
【カイト】
黄の国から海を渡って、一度青の国へと戻る。
南に位置する青の国は、黄の国と比べると随分暖かい。基本的に青の国に雪が降ることなど滅多と無いし、降ったとしても積もる事は全く無い。
殆ど一年中各地を転々としている俺でも、青の国に戻ると『帰ってきた』という気がする。矢張り俺が、この国で生ま...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第五話【カイミクメイン】
-
【ミク】
お母様、と呼んで目の前の女性に手を伸ばす。
けれどその女性はあたしの手を振り払う。
泣きそうになったあたしに、大きな男の人が話しかける。
『これを持っていなさい。決して手放さないように』
渡されたのは、髪飾り。あたしみたいな子供がつけるようなものではない、高そうな、百合の髪飾り。
...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第四話【カイミクメイン】
-
【レン】
「カイトさんは、もし手に入るならどの宝が欲しいかしら?」
普段よりは1オクターブは高い声で、リンが言う。その人と話をするのが心底嬉しくて堪らない、というような表情で。
相手の人は優しげな笑みを浮かべながら答える。
「私は、余りそういったものは欲しいとは思いませんね」
それはそうだろう...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第二話【カイミクメイン】
-
【メイコ】
「よいっしょー、っと」
畑で育てた大根を渾身の力で引っこ抜く。うん、太くて瑞々しくて美味しそうだ。
これならきっと、カイトの父さんにも高く買ってもらえるだろう。
今は丁度収穫の時期で、いつもこのくらいの時期になるとカイトとカイトの父さんがうちの野菜を買い取りに来る。今ではそのおかげ...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第三話【カイミクメイン】
-
【カイト】
黄の国、青の国、緑の国。
三つの国にはそれぞれ宝がある。
黄の国には薔薇の印を刻んだ二つの懐中時計。
時を刻み続ける、最も古から続く国の証。
青の国には菖蒲の印を刻んだ二つの短刀。
黄の国に続く歴史を持つ、最も勇壮な国の証。
緑の国には百合の印を刻んだ二つの髪飾り。
歴史...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 第一話【カイミクメイン】
-
こちらは「悪ノ娘」・「悪ノ召使」の派生小説(カイミクメイン)の注意書き及び設定になります。
■注意事項
・カップリング要素(カイミク)が強い。
・カイトがやたらとモテる。(バカでも鈍くもないが、ヘタレっぽい)
・あくまで妄想から発生したので、独自のオリジナル設定有。
・がくぽ、ルカも登場します。
...【悪ノ派生小説】比翼ノ鳥 注意書き及び設定【カイミクメイン】