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10. 中編
「……」
やがて廊下の途中にちょっとしたスペースのあるところにたどり着く。そこにはいくつかの放置されたロッカーと、上へと続く梯子があった。
梯子を登り、また別の室内へ。さっきの部屋よりはマシだが、それでもまだ汚い。
とはいえその汚れは先ほどまでとは違い、人の生活によって生じる汚れ...針降る都市のモノクロ少女 10中編 ※二次創作
周雷文吾
10.
「違う! 俺が指示した訳じゃない! 俺のせいにされたんだよ。殺したかったわけでも、殺そうと思っていたわけでもない!」
窓のない、コンクリートで囲われた薄汚い部屋の中央で、全身を椅子に縛られて座らされている男が絶叫する。
少しまどろんでいたオレは、夢想を止めて舌打ちする。
口にしていたロ...針降る都市のモノクロ少女 10前編 ※二次創作
周雷文吾
9.
「ギュスターヴ・ファン・デル・ローエ二世。我、ニードルスピアの名に置いて汝の罪を裁かん。己が罪を数えよ」
「は……? いったい何の冗談――」
「一つ。レオナルド・アロンソを操り、十二年前の革命もどきを引き起こした罪」
告げながら、女は市長の目の前まで悠然と歩を進める。
「待ちたまえ。誰の許可...針降る都市のモノクロ少女 09 ※二次創作
周雷文吾
8.
「彼は生前、この都市の為に良く働きました。市長と友人でもあった彼は、市長を助け、また一般市民の味方となりこの都市への貢献を忘れませんでした」
針降る都市から少し離れた郊外の墓地で、神父が聖書を片手に祈りを捧げている。
どんよりとした空からは、重苦しい雨が降っていた。いつもの霧雨と違って、雨...針降る都市のモノクロ少女 08 ※二次創作
周雷文吾
7.
女が路地裏を抜けて通りの道へと出る。
瞬間、黒い影が現れる。
「マム!」
少年が叫ぶが、黒い影は――。
「ミセス。お待たせしました」
影はそこで待っていただけで、そう女に声をかける。
「ん? ああ、ディミトリ。別に待ってねーよ。ありがとな」
女は影に――執事に声をかけ、振り返る。
「...針降る都市のモノクロ少女 07 ※二次創作
周雷文吾
6.
マスターの元にやって来てから、ずいぶん時が経った。
季節は何度も巡り、わたしはマスターの手に引かれてこの都市の酸いも甘いも見てきた。
色んな約束をした。
ゆびきりげんまんもした。
マスターに拾われるまで、わたしにはなんの価値もなかった。
けれど、今は違う気がする。
マスターの手助...針降る都市のモノクロ少女 06 ※二次創作
周雷文吾
5.
この都市は運河の河口に位置し、元々は運河と海路を使った交易で発展した都市だった。
産業が発展するまでは漁業も盛んだったが、産業の発展に伴い漁港は次々と貿易港へと作り替えられていき、あっという間に漁業は衰退した。
この都市――針降る都市は、運河で分けられた東西、そして貿易港や工場の密集する...針降る都市のモノクロ少女 05 ※二次創作
周雷文吾
4.
ぼくはとびらの外をポカンと見つめる。
すっごく高いところにきてるはずだってことはわかってたけれど、まさかそんなに高いなんて思っていなかった。
「どうした、早く入りたまえ」
「まーまーそんな焦んなって。コイツは初めて来たんだ。ビックリくらいするさ」
「ふむ、そういうものか」
「なんだよ。少年...針降る都市のモノクロ少女 04 ※二次創作
周雷文吾
3.
鋼鉄の都市の中央である一番地区。二十階を越える建造物が集まる高層ビルエリアの中でも一際高いその建物は、都市行政庁舎という名前だった。が、ここの持ち主――市長の名前から広くギュスターヴタワーと呼ばれ、市民の多くもそれが正式名称だと認識している。
仮に――ほとんどあり得ない話だろうが――市長が...針降る都市のモノクロ少女 03 ※二次創作
周雷文吾
2.
ぼくはただ空を見上げる。
きりさめがふっていたはずなのだけれど、そこかしこからでてくるじょうきや、たてものがこわれるときのほこりで、そんなのはあんまり気にならない。
ドン、ズドン。
さけびごえ、ひめい。
ズズン、ガシャン。
おたけび、ときの声。
ガラガラ、ガラガラ。
かんせい、...針降る都市のモノクロ少女 02 ※二次創作
周雷文吾
針降る都市のモノクロ少女 ※二次創作
1.
日が傾き、雲が赤く染まってゆく。
都市の至る所から蒸気機関の白煙が立ち昇り、都市の中央で一際高くそびえる鉄の塔が、その蒸気で揺らいでいた。
鋼の身体と蒸気の血液で脈動する鋼鉄の都市は、日の陰り程度でその活動を止めたりはしない。
鋼鉄の都市。
眠る...針降る都市のモノクロ少女 01 ※二次創作
周雷文吾
19
今日、僕らはようやく「ソルコタ民主主義共和国」として独立する。
国際連合ソルコタ暫定行政機構、UNTASの活動は、結局は三年四ヶ月もの期間に及んだ。
波打つ緑と黄色、そしてギザギザの青と橙色が交差する国旗は、カタ族とコダーラ族の伝統模様をあしらったものだった。
三年四ヶ月の間、僕らは新...アイマイ独立宣言 19 ※二次創作
周雷文吾
18
「ぐ……うあっ!」
銃声と共に、腹部に焼けつくような痛み。
「母さん!」
銃を構える彼の、悲愴な視線。
その奥で、座ったままのウブクが事態についていけず目を丸くしている。
「グミ!」
銃を撃った彼の方がつらく苦しい表情をしていることに、目を奪われてしまう。
モーガンとカルが私を呼ぶ声...アイマイ独立宣言 18 ※二次創作
周雷文吾
17
「久しぶりですな。ミス・カフスザイ」
「……そうですね。ミスター・ウブク。あれから、なにもかもが変わりました」
握手をして席につくなりそう声をかけてきたシェンコア・ウブクに対して、私は穏やかな笑みを浮かべてそう返答する。
あれから。
シェンコア・ウブクと私が前回顔を合わせてから、もう何年...アイマイ独立宣言 17 ※二次創作
周雷文吾
16
一ヶ月と十日後。
ソルコタとはほとんど利害関係のない第三国。
そこのホテル・ナヴァルーニエに私たちはやって来ていた。
国内有数のホテルであり、元々からして守りが堅固な上、今回はこの国の軍隊が警備を固めているという話なのだが……いま目の前に見える荘厳な教会建築を思わせる建物を前にすると、...アイマイ独立宣言 16 ※二次創作
周雷文吾
15
『ソルコタ国民の皆さん。
困難と共にあるこの日に、やっとこうやって皆さんにお話ができることを……たとえ痛ましい日々の合間だとしても、嬉しく思います。
私は訴えなければなりません。
ソルコタという国に住む――住んでいた人々の代表として。
私たちの国は、長い間問題を抱え、終わりの見えぬ紛争...アイマイ独立宣言 15 ※二次創作
周雷文吾
14
あれからあらゆる混乱がごった返して押し寄せてきた。
一つずつ、順番に語ろう。
まず、ソルコタは無政府状態となった。
……ケイトの予測は、正しかったと言えるだろう。私には、それを変えるだけの力がなかった。
行政府庁舎が破壊され、ラザルスキ大統領臨時代理以下、この国の政治と行政を取り仕切...アイマイ独立宣言 14 ※二次創作
周雷文吾
13
執務室に入ってきたのは、まだ幼い少年だった。
だがその視線は暗く、片手で構えた自動小銃にも、もう片方に携えた粘土のようなそれにも、私たちに対する敵意しかない。
粘土のようなものにはなにかを突き刺しており、その先にはスイッチが見てとれる。
あれは、十中八九プラスチック爆弾だ。
恐らくは...アイマイ独立宣言 13 ※二次創作
周雷文吾
12
『わかってる! いま大急ぎで引き返しているところだ! しかし……ええい、どんなに急いでも三時間はかかるぞ!』
四輪駆動車の助手席なのだろう。ハーヴェイ将軍の怒鳴り声の奥からは、四輪駆動車のエンジンがうなりをあげている。
「ここは、あと……二時間持てば長い方でしょう。実際には一時間弱かと」
...アイマイ独立宣言 12 ※二次創作
周雷文吾
11
三日後の昼過ぎ。
私は再び大統領執務室へとやって来ていた。
UNMISOLの現状を、ラザルスキ大統領臨時代理に報告するためだ。
……現状を大まかにでも把握するだけで、それだけの日数がかかってしまったのだ。
私の護衛はエリックだけだった。私はカンガを羽織り直して、彼にうなずく。エリック...アイマイ独立宣言 11 ※二次創作
周雷文吾
10
「と……まあ、こんなところですかね」
「……」
自慢げに話し終えたラザルスキ大統領臨時代理とは逆に、私はただ戦慄するしかない。
「これは……。本当なんですか?」
「本当もなにも……私が嘘をつくとお思いで?」
心外そうな大統領臨時代理を無視して、将軍を見る。
「訂正の余地はないのですね?」
...アイマイ独立宣言 10 ※二次創作
周雷文吾
09
ソルコタ首都、アラダナ。
植民地支配が終わり、ソルコタという国が独立してから作られた都市だ。その歴史は浅く、まだ五十年も経っていない。
しかし、新しい都市だからこその利点というべきか、その全体像はきっちり区画分けされた碁盤目状だ。
……都市としては機能的だが、いざ戦争となると“攻めやす...アイマイ独立宣言 9 ※二次創作
周雷文吾
08
飛行機を三回乗り継いで、小型のセスナ機で二つ隣の国の空港へ。そこからソルコタとの国境までNGOの小型車両に相乗りさせてもらって十五時間。そこで政府軍の車両に乗り換え、私はやっとソルコタに帰ってきた。
小型の四輪駆動車が三両、縦に並んで走っている。私が乗っているのは真ん中の車両で、前後の護衛...アイマイ独立宣言 8 ※二次創作
周雷文吾
07
数週間後、一通の封筒が私の元に届いた。
紛争地域であり、発展途上国であり、否定しようもないほどの最貧国でしかないソルコタの元大使だったケイト・カフスザイは、私の考えていた以上に、国連内で多くの人たちの印象に残っていたらしい。
その立場からすると……想像以上に多くの人々が、ケイトの死を悼ん...アイマイ独立宣言 7 ※二次創作
周雷文吾
06
気がつくと、私は医務室のベッドで寝かされていた。
ピッピッピッ、という無機質な電子音は私の心拍を計測している機械の音だろう。
「ミス・カフスザイ? 気がつかれましたか?」
ベッドのすぐ横にいた看護師が、私の様子に声をあげる。
「えぇ……ごめんなさい」
「お気になさらないで。点滴……投与し...アイマイ独立宣言 6 ※二次創作
周雷文吾
05
石橋を叩いて渡る、というのは日本という国のことわざらしい。
うまい表現だと思う。
何事も念入りに確認をする、というのは大事なことだ。
しっかりとしているように見える石の橋ですら、渡る前に叩いてその強度を確かめる。
そんな用心深さが、私にも必要なんだろう。
「ミス・グミ。このままではU...アイマイ独立宣言 5 ※二次創作
周雷文吾
04
「ケイト? 呼びましたか?」
ノックしてソルコタ政府代表室に入る。ケイトはデスクでなにかの書類を読んでいた。
「ああ、グミ。いらっしゃい」
顔をあげて私をちらりと見ると、デスクの前のワーキングチェアを勧める。
ニューヨークの国連本部にある、ソルコタ政府のための部屋はこの大使の個室と外の事...アイマイ独立宣言 4 ※二次創作
周雷文吾
03
それから数ヵ月は、怒濤のうちに過ぎ去っていった。
スピーチ直後は、たくさんの人たちに囲まれて挨拶され、握手を交わし、たくさんの感想を聞いた。
ハビエル国連事務総長。
クラーク国連総会議長。
安全保障理事会の常任、非常任理事国の国連大使。
その場に居合わせた他国の国連大使たち。
た...アイマイ独立宣言 3 ※二次創作
周雷文吾
02
「――そして今日この日、ソルコタの現状を語ってくれる方がこの場にいらっしゃいました。ソルコタのミス・グミです。どうぞこちらへ」
クラーク議長がそう言うと、いっせいに僕に視線が集まる。
拍手喝采。
僕、私はたじろぐしかない。
「さぁ、話してきていらっしゃい」
ケイトに背中を押され、私は立...アイマイ独立宣言 2 ※二次創作
周雷文吾
01
あれから三年の時が経った。
結局、ソルコタの内戦は終わらなかった。
東側のテロ勢力はESSLF、と名を変えて、いまでも政府軍と激しい戦闘を繰り広げている。
僕は――いや、もう私と言うべきか――あの頃の……子ども兵だった頃の名前を捨てた。
いまの僕の……私の名前はグミだ。
女であると...アイマイ独立宣言 1 ※二次創作
周雷文吾